2008年12月27日
HyperFormalism訳出
(↓写真)Kiss the Sky展(NMC Arts Lab)にて、第2期に向け調整中の新作(Oberon Onmura)。並んだ皿が光ると、そこから真珠色の玉が生まれて舞い上がる。
今でも会場入り口で入手できる(リンク切れ。当sim消滅09年2月19日)プレスリリースを、原筆者にも問い合わせながら、全訳しました。以下に掲載します。
展示オープンから半年以上経ってしまいましたが、なぜ訳出が延びたのかは、読んで頂ければ解ると思います。原文は、文法にも概念にも曖昧さを多く残しています。それでも訳したのは、この展覧会が、「この世界」における美術がどうあるべきかを定義しようとした(定義できたとは思えませんが)、ほとんど唯一のものだと思ったからです。展示主旨に反論することは容易ですが、反論できるほどに明確な主張が他に無かったことを考えると、これはこれで生産的な展覧会だったと思います。
多くの日本語プログでも紹介されてきた本展ですが、「ハイパーフォーマリズム」という語がアレルギーを呼んだのか、企画者の意図が伝わりにくかったように思います。
そんなわけで、原文のおかしなところも、おかしいとおりに訳したつもりですから、変わった言い方が出てきても、それは元々原文にあったはずです。それでも誤訳・別訳を感じられましたら、何卒ご教示下さい。
以下、訳・訳注
展示オープンから半年以上経ってしまいましたが、なぜ訳出が延びたのかは、読んで頂ければ解ると思います。原文は、文法にも概念にも曖昧さを多く残しています。それでも訳したのは、この展覧会が、「この世界」における美術がどうあるべきかを定義しようとした(定義できたとは思えませんが)、ほとんど唯一のものだと思ったからです。展示主旨に反論することは容易ですが、反論できるほどに明確な主張が他に無かったことを考えると、これはこれで生産的な展覧会だったと思います。
多くの日本語プログでも紹介されてきた本展ですが、「ハイパーフォーマリズム」という語がアレルギーを呼んだのか、企画者の意図が伝わりにくかったように思います。
そんなわけで、原文のおかしなところも、おかしいとおりに訳したつもりですから、変わった言い方が出てきても、それは元々原文にあったはずです。それでも誤訳・別訳を感じられましたら、何卒ご教示下さい。
以下、訳・訳注
=========Press Release=========
For Immediate Release
速報
New Media Consortium and the Museum of Hyperformalism Presents
"Kiss the Sky", an art historical survey of Hyperformalism in the virtual world of Second Life
A 21st century art movement, native to the the virtual world - Curated by DC Spensley (DanCoyote Antonelli in Second Life)
ニューメディア連+ハイパーフォーマリズム・ミュージアム主催
「キス・ザ・スカイ」 セカンドライフのヴァーチャル・ワールドにおけるハイパーフォーマリズムの美術史的概観。
ヴァーチャル・ワールド・ネイティブの21世紀美術運動--- キュレーター DC Spensley(セカンドライフ名 DanCoyote Antonelli)による。
May 2, 2008, (Second Life) - Virtual worlds are a place for discovering new territories and exploring meaning outside the context of the material world. Even in virtual worlds there is an avant garde, a native artform spawned from unique conditions.
"Kiss the Sky" is an exhibition of artists that have been wowing viewers since 2006
with art installations indigenous to the virtual world that artist/curator DC Spensley calls Hyperformalism.
2008年5月2日(セカンドライフ) - ヴァーチャルワールドは、新領域の発見と、物質世界文脈外の意味を探訪するための場である。ヴァーチャルワールドであっても、そこには前衛があり、ネイティブの美術形式が独自の状況から発生した。
「キス・ザ・スカイ」 は、アーティスト兼キュレーター DC Spensley がハイバーフォーマリズムと呼ぶヴァーチャルワールド生来の美術インスタレーションと共に、2006年より見る者を熱狂させてきたアーティストたちの展覧会である。
On May 17, 2008, 12PM PST, DC Spensley will unveil "Kiss the Sky" the definitive group exhibition of Hyperformalism as expressed by over a dozen artists working the discipline in the virtual world of Second Life. Artists included are the most notable creators in the virtual world of Second Life, chosen specifically for their Hyperformal direction. On display are Chance Abattoir, Vlad Bjornson, nand Nerd, Selavy Oh, Adam Ramona, Nebulosus Severine, AngryBeth Shortbread, Sasun Steinbeck, Sabine Stonebender, Seifert Surface, elros Tuominen, Juria Yoshikawa, and i7o Zhu
2008年5月17日米大西洋時間正午、DC Spensleyが披露するのは、ハイパーフォーマリズム展の決定版「キス・ザ・スカイ」。ヴァーチャルワールド・セカンドライフを活動領域とするアーティスト十余名の発表である。彼らアーティストたちは、ヴァーチャルワールド・セカンドライフで特筆すべきクリエイターであり、特にハイパーフォーマリズム指向者として選ばれた。展示されるのは(訳注 以下原文通りの作家名につき省略)。
More information about each artist and artist biographies are available at the main platform at the exhibition.
各アーティストの詳細と経歴は、展覧会におけるプラットホームにて入手されたい。
Hyperformalism is non-figurative abstraction in hyper-medium and has been known to include abstract objects arranged in simulated space, navigable on a network as well as expressions of reactive and interactive artwork behaviors and geometric or algorithmic pattern play in 2, 3, and 4 dimensions. This list is far from comprehensive. Because Hyperformalism is not representational, viewer relationships are less fettered by pre-existing symbolic weight and artworks encourage fascination with form for its own sake. The virtual world provides the ability to liberate the work from scale constraints and provides a perfect context for this post-conceptualist form.
ハイパーフォーマリズムは、ハイパーメディアにおける非具象抽象である。また、リアクション/インタラクションによる美術作品の振る舞いによる表現、二・三・四次元の幾何学的・論理的パターン演出に留まらず、シミュレーション空間で組まれネットワークを行き交う抽象オブジェクトとしても知られている。しかし、このような枚挙では概略にほど遠い。なぜなら、ハイパーフォーマリズムは具象に無く、観客との関係が既存表象の重みにさほど捕らわれず、美術作品がそれ自身の目的のための形の魅力を促すからだ。ヴァーチャル・ワールドは、作品をスケールの制約から解放する可能性をもたらし、また、このポスト概念主義形式に向けた完全な文脈をもたらす。
With a figure in the picture, nobody notices the landscape. Hyperformalism proposes that that by removing the comfortable cliché of anthropocentricism a viewer will be more open to a whole other class of experiences that resonate on a more basic level of awareness and reflect back to the viewer their own humanity. The perception of immersion and variable point of view implicates the viewer into unique relationships with the work destroying all of the usual boundaries between the viewer and the work.
誰も、絵の中の形から、風景を見出すことはない。ハイパーフォーマリズムは、提示するのだ。人間中心主義の安楽な常套句を剥ぎ取ることで、より基本的なレベルの自覚に響き、見る者自身の人間性を顧みる、別格な体験の全てに、見る者が開かれることを。環境に没入する経験や多様な視点は、見る者-作品の間にありふれた境界全てを崩す作品とともに、見る者をユニークな関係へと巻き込む。
While space in virtual worlds is a simulation, place can be real. In fact art experiences are the only thing that can be real in both the virtual and material worlds at the same time. Abstractions that exist as discoverable objects are somewhere between object and concept. It is the state of half existence between object and concept that differentiates formal abstraction in virtual worlds from preceeding/preceding/proceeding expressions of formalism, minimalism and abstract expressionism. Hyperformalism is not Modernism, it is not Post-modernism because it is native to a continuum where only the human mind can visit and where the body and the ideological weight of the figure are not the default fixed point of view.
ヴァーチャル界における空間はシミュレーションでありながら、場はリアルたり得る。事実、芸術体験が唯一、ヴァーチャル界と物質界の双方同時にリアルたり得る。見出しうるオブジェクトとして存在する抽象は、オブジェクトとコンセプトの間のどこかにある。ヴァーチャル界における形式的抽象を、フォーマリズム・ミニマリズム・抽象表現主義ら先行の表現から区別しても、それはオブジェクトとコンセプトの間を半面しか語らない。ハイパーフォーマリズムは、モダニズムではない。ポストモダニズムではない。なぜならそれは、人の心のみが訪れ得る場から、形の観念的重みや身体が既定観点にない場へかけて、ネイティブに連続体であるからだ。
About DanCoyote Antonelli (DC Spensley)
Hyperformalist artist and cultural theorist first invited to exhibit in Second Life by Ars Virtua curator Rubaiyat Shatner. Continued residency in Second Life is supported in part by the New Media Consortium where DanCoyote Antonelli (DC Spensley) has been artist in residence since 2006, private collectors and many other generous patrons of the arts in both the virtual and material worlds. DanCoyote Antonelli (DC Spensley) has exhibited internationally in museums and electronic arts festivals.
ダン・コヨーテ・アントネリ (DC Spensley)について;
アルス・ヴァーチャ・キュレーター = ルバイヤート・シャトナーにより、セカンドライフにおける展示に初めて招かれたハイパーフォーマリストアーティスト、文化理論家。
引き続くセカンドライフ滞在の支えは、DanCoyote Antonelli (DC Spensley)が2006年よりアーティスト・イン・レジデンスであったところのニューメディア連、個人コレクター、ほか、ヴァーチャル界・物質界双方の美術に寛大な多くのパトロンである。
DanCoyote Antonelli (DC Spensley)は、美術館や電子芸術祭で国際的に発表している。
About the New Media Consortium (NMC)
The NMC is an international consortium of more than 250 world-class universities, colleges, museums, research centers, and technology companies - and the largest educational body in Second Life - dedicated to using new technologies to inspire, energize, stimulate, and support learning and creative expression.
ニューメディア連 NMCについて
NMCは、250以上の世界規模の大学、博物館、研究所、技術系企業からなる連合であり、セカンドライフ最大の教育団体である。教育と想像的表現を鼓舞・激励・刺激・支援するためのニューテクノロジー利用に貢献している。
About Second Life and Linden Lab
Second Life is a 3D online world with a rapidly growing population from 100 countries around the globe, in which the Residents themselves create and build the world, which includes homes, vehicles, nightclubs, stores, landscapes, clothing and games. The Second Life Grid is a sophisticated development platform created by Linden Lab, a company founded in 1999 by Philip Rosedale, to create a revolutionary new form of shared 3D experience. The former CTO of RealNetworks, Rosedale pioneered the development of many of today's streaming media technologies, including RealVideo. In April 2003, noted software pioneer Mitch Kapor, founder of Lotus Development Corporation, was named Chairman. In 2006, Philip Rosedale and Linden Lab received WIRED's Rave Award for Innovation in Business. Based in San Francisco, Linden Lab employs a senior team bringing together deep expertise in physics, 3D graphics and networking.
セカンドライフとリンデン・ラボについて
セカンドライフとは、世界100ヶ国からの人口が急成長している3Dオンライン・ワールドであり、その中で住人自ら、家・乗り物・ナイトクラブ・店舗・風景・服・ゲームなどを含む世界を創り築いている。セカンドライフ・グリッドは、革命的に新しい3D共有体験の形を創るための、洗練された開発プラットフォームであり、1999年フィリップ・ローズデイル創業の企業リンデンラボが創った。前リアル・ネットワークス最高技術責任者ローズデイルは、RealVideoなど、現在のストリーミング・メディア・テクノロジーを開拓した。2003年4月、著名ソフトウェア開拓者・Lotus開発会社創業者のミッチ・ケイパーが会長に指名された。2006年、フィリップ・ローズデイルとリンデンラボは、ビジネス革新により、WIRED誌 Rave賞を受けた。サンフランシスコに拠点に、リンデンラボは、物理・3Dグラフィックス・ネットワークに深い専門知識を寄せる幹部を擁している。
Registration and an account are necessary to access Second Life, but require very little time and effort. A basic account is absolutely free, and includes unlimited access to Second Life's tools, events and communities. It is recommended that a minimum of 15 minutes be allocated to learn basic skills prior to attending the performance. Additional preparation would only enhance the experience.
セカンドライフへのアクセスには、アカウント登録が必要だが、そのための時間や手間はほとんど掛からない。ベーシックアカウントは、全く無料・無制限で、セカンドライフのツール・イベント・コミュニティにアクセスできる。滞在に必要な基礎技能の習得のため、最低15分掛けることが望ましい。
System Requirements
Your computer must meet specific requirements, or you may not be able to successfully participate in Second Life. Learn more about those requirements here: http://secondlife.com/corporate/sysreqs.php
動作環境
コンピュータが所定の動作環境に満たない場合、セカンドライフへの参加に問題を起こすことがある。詳しくは、こちらのURLを参照されたい。http://secondlife.com/corporate/sysreqs.php
Contact for more information
DC Spensley
Curator/Artist
問い合わせ先
DC Spensley
キュレーター/アーティスト
(訳注 メールアドレス省略)
訳注:
・本プレスリリース以前に、ハイパーフォーマリズムに関する論文・評論は、存在しない。これは、訳者からの問い合わせに対して、原筆者DC自身から率直に認めている。
ハイパーフォーマリズムという語は、DC本人によれば2003年から使っていたと言うが、まとまった主張の用語ではなく、キャッチコピーないしキーワードの範囲で個人的に使われていたのが実状と思われる。つまり、ハイパーフォーマリズムに関する、ほとんど最初・唯一の論拠が、このプレスリリースである。
・フォーマリズム=形式主義、 form 形式。形態・形象の意味は無い。ここでは、ハイパーフォーマリズムとの兼ね合いから、「形式主義」ではなく「フォーマリズム」を選び、カタカナ表記で揃えた。一般に、表現内容よりも表現形式を前面に置く制作・批評の立場で、作例の範囲が広い。広義には、表現形式を問う全ての芸術作品・芸術家が該当する。その意味で、ルネッサンス期の遠近法の実験作や、エドワード・マネ以降の近代絵画の大半は、フォーマリズムに該当する。一方で、狭義のフォーマリズムとして、美術批評に台頭した第二次大戦直後、抽象表現主義以降の美術動向を指す意味でも用いうるが、ここでDCは、どちらの意味で使っているだろうか。
フォーマリズムに対して「ハイパーフォーマリズム」(本展「キス・ザ・スカイ」基調)は、コンセプチュアリズム(概念主義)・ミニマリズム・抽象表現主義などと並列に扱われて、あたかも一個の美術運動であるかのように(例えば、印象派展を支える「印象主義」のように)語られている。元のフォーマリズムが個々の美術運動を超えた広範な美術史観であると考えるなら、過剰に壮大・性急な命名ではないだろうか。
・アルス ars は、アート artの語源となったラテン語で、アートよりも古い歴史から、芸術・科学技術の未分化状態をも意味する。そのため、芸術と科学技術の融合を唱えるメディアアートの文脈で、好んで使われる。リンツのArs Erectoronicaが有名。
・object は、このテキスト中、三通りの訳が生じる。「オブジェ」(仏読み 生の展示品。美術的加工以前のままをギャラリーで露出させた物)、「オブジェクト」(情報処理上の操作単位、セカンドライフにおけるプリムのまとまり)、「対象」(ここでは「概念」と対にして、存在論の文脈に近づけたつもりらしい)。三者の意が錯綜して用いられているため、三通りに読み解ける「オブジェクト」の訳語で揃えた。
・重複表現の多用。これは、提唱者の文章能力以前、思考の癖と解釈して、そのまま訳した。
・修飾節と被修飾節が込み入って、つながりを読みにくい部分は、込み入ったとおりの文として、できるだけそのまま訳した。原筆者が明確に書く意図を持っていなかったようだ。
Posted by comet/コメット at 07:15│Comments(0)
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